セルフ・トーク 誰でもできる「コーチング」のはじめ方 STEP6


セルフ・トーク 誰でもできる「コーチング」のはじめ方 STEP6

『誰でもできる「コーチング」のはじめ方 STEP6 セルフ・トーク』では、「セルフ・トーク」について解説します。


セルフ・トークとは、「自分自身に語りかける言葉」のことですが、そのエッセンスを一言で言ってしまえば、「セルフ・トークがセルフイメージを形成し、セルフイメージがコンフォートゾーンの境界を決める」ということに尽きます。


これまでのステップで、ゴールを達成していくために、セルフイメージやコンフォートゾーンをゴールに合致したものに変えていくことが、どれほど重要なことであるかを強調してきました。

このSTEP6では、セルフイメージを変えるための非常に強力なツールとなる、「セルフ・トーク」について学びます。



セルフ・トークとは、「自己対話、自分自身に語りかける言葉」のことです。

多くの場合、それは他人との会話というよりは、心の中で自分自身に対して内省的に発し、語りかけている脳内会話や独り言のことです。自分に対する言動や評価のことです。

例えば、「しまった、自分はなんてバカなんだ」とか、「いつも私はこうなんだ、失敗ばかりして」のような言葉です。



セルフ・トークの持つ影響力は非常に大きなものです。

それは、セルフ・トークは言葉の問題だけではないからです。言葉によって想起された映像や感情が、その人に対して強く影響を与えるからです。


例えばビジネスの場面で、相手との商談に失敗をして、そのときの場面を思い出したり、何度も考えたりする人がいます。このとき、「自分はなんてダメなんだ」とか、「自分はいつもこんな調子だ」などとネガティブなセルフ・トークを発しているものです。

そして、このとき発しているのは、否定的な言葉だけではなく、否定的な映像や感情が伴っています。

まるで、実際の失敗体験を何度もしているかのように、脳内で再現している行為なのです。


一度しか失敗していないことであったとしても、それをネガティブなセルフ・トークとして何度も繰り返していると、セルフ・トークによって失敗をしたときの映像と感情が喚起され、実際にその失敗体験を何度も繰り返していることになります。

多くの人はこのことに気づかずに、安易にネガティブなセルフ・トークを発しています。

言葉の持つ影響力を過小評価してしまっているのです。



人は一日に数万回もの頻度で思考やセルフ・トークを行っています。その数字は5万回とも言われるデータもあります。

その中には、つぶやいたり、ぼそっと口走ってしまったり、過去の出来事を思い返したりと、一見些細なセルフ・トークに思えるものもあるかもしれません。

しかし、言葉はその時の映像と感情を想起させますから、単に言葉を発しているように見えても、実際に体験したことと同じような影響が自分に対して起こっているのです。



実は、このセルフ・トークが、セルフイメージの形成に、特に強い影響を与えています。

それが意識的であっても無意識的であっても関係ありません。脳や無意識はその言葉を、そして言葉によって想起された映像や感情を記憶として脳内に蓄積し、セルフイメージを形成していきます。

脳や無意識にとって、セルフ・トークの良し悪しというのは全く判断されません。ただ、発したセルフ・トークをセルフイメージの一部として取り込み、結果としてセルフ・トークやセルフイメージに合致した行動を私たちに取らせるだけです。


セルフ・トークを何度も繰り返すことによって、自分とはこういう人間なんだという自分像が脳内に何度も刷り込まれ、自我の形成が着実に積み重なっていきます。

実際には一度しか起こっていない出来事であっても、それに関するセルフ・トークを繰り返していくと、その出来事を何度も体験したのと同じように脳内で再現され、記憶やセルフイメージとして定着してしまいます。



加えて、自分に対する他人の意見や言葉においても、同じことが言えます。

「あなたはいつも忘れっぽい人ね」などと何度も繰り返し聞かされていくうちに、「そうか、自分は忘れっぽい性格なんだ」などとセルフ・トークを繰り返し、それをセルフイメージの一部として取り込み、忘れっぽい人格を強化していってしまうのです。


自動車事故を起こす人の割合に関するデータによると、交通事故の8割は、全体の2割の人だけが起こしていると言われます。

つまり、事故を起こしやすい人がいて、そういう人が事故の多くの割合を占めている。一方で、事故を起こしにくい人がいるということです。

これなどはまさしく、セルフイメージの問題です。

家庭内における、朝、出掛ける矢先での夫婦の会話で、「あなたは事故を起こしやすいんだから、気をつけてね」などと旦那さんが奥さんに言われて、「そうだよな、俺は事故をよく起こすから、気をつけないと」みたいなセルフ・トークを日常的にしていたとしたら、そのたびに事故の記憶が脳内で再現され、事故を起こしやすい人格やセルフイメージを育ててしまうことになるのです。

「あなたは事故を起こしやすい人なんだから」と言われるたびに、その人はますます事故を起こしやすい人物になっていきます。


日常での何気ない会話や言葉が、ネガティブなセルフ・トークを生み、その人の望まぬ方向にセルフイメージを強化していってしまうことは、本人の自覚や意識はなくても、実際にはよくあることなのです。



コーチングの創始者であるルータイスの言葉を引用します。

「言葉が人生を決定する」

「潜在意識は、超高性能テープレコーダーのようなものだ」

「自分と話すときには、つねに現状の世界がどうなっているかを自分自身に告げています。認識し経験したことを解釈し、思考を通して頭の中にイメージをつくり上げます。その中にはセルフイメージも含まれます。自分自身の思考と言葉で、自分のための環境と限界と基準をつくりだしています」


自分が日々発している「口癖」を観察してみると、よく分かると思います。

普段から自分自身に語りかけている言葉通りの人生や現実を、無意識のうちに、皆さんの周りに引き寄せてはいないでしょうか。



ここで、非常に重要なマインドの仕組みをご紹介します。


「言葉、映像、感情」 ⇒ 「セルフ・トーク」 ⇒ 「セルフイメージ」 ⇒ 「コンフォートゾーン」 ⇒ 「現実(能力、パフォーマンス、成果)」


「言葉、映像、感情」のことをコーチングでは、「思考の三つの軸」といいます。

言葉は必ず映像を想起させ、映像は必ず感情を結び付けます。そうしてそれぞれが相互に作用し、人間の脳内に記憶として蓄積されていきます。

蓄積された情報をもとに、人は自分が受け入れたものを自分らしさとしてセルフ・トークを発し、セルフイメージを形成していく、これがマインドの中で起こっている仕組みです。


前のSTEP5のエスティームとエフィカシーで、「セルフイメージを高める上で最も重要ことは、セルフエスティームやエフィカシーを上げること」という説明をしましたが、それがきちんと分かっていないと、当然セルフ・トークもセルフイメージを高めるものになってはいきません。

逆にいうと、セルフエスティームやエフィカシーが分かっていれば、セルフ・トークも自然に、前向きで建設的なものとなります。「私は優秀だ」「私ならできる」「私は価値ある人間だ」などとポジティブな言葉がけを自分自身に対して行っていくことができます。


単なる言葉遊びだろうなどと感じてしまう方もいるかもしれませんが、そうではありません。

言葉は映像を想起させ、感情を結び付け、脳内に記憶として強く残ります。セルフイメージの一部として確実に取り込まれていくわけですから、言葉の持つ影響力は計り知れないものがあります。


こういった自らを肯定するセルフ・トークをルータイスは、「スマート・トーク」と呼びました。スマート・トークはセルフイメージを高め、無意識はその言葉に一致した行動を私たちに取らせます。

これが言葉の持つ力なのです。



セルフ・トークをコントロールすることがどれほど重要であるかを説明してきましたが、では、どのようにコントロールをしていけばよいのでしょうか。


その判断基準は、「ゴールを達成した世界にいるはずの自分にふさわしい言葉かどうか」ということです。

セルフ・トークをすべて、ゴール(やサブゴール、次のステップで解説します)、組織の場合は組織のゴールに対して、肯定的な表現や言葉に変えていくということです。


コーチングでは、まず、「目的地」があることが大前提です。

その目的地、すなわち「ゴール」をきちんと設定し、そのゴールの世界をコンフォートゾーンとする。すると、マインドはゴールを達成するためのエネルギーを生み出し、無意識がそのための方法を勝手に探し出し、私たちはゴールへと向かっていくことができるのです。

ゴールの世界をコンフォートゾーンとするようなセルフイメージの構築、それを形成するためのスマート・トークを意識する。これが「セルフ・トークのコントロール」になります。


セルフ・トークのコントロールは、ゴールが定まっていなければ、やりようがないのです。逆に、ゴール設定がきちんとできていれば、セルフ・トークのあるべき方向性は、自ずと明らかになっていきます。

スマート・トークを意識するとは言っても、その内容は人によって異なりますし、ゴールによるのです。

スマート・トークは、「ゴールありき」ということです。



スマート・トークを実践していくうえで、もうひとつ重要な点があります。

それは当たり前のことでもありますが、「目標とする理想のセルフイメージに合致しない、ネガティブな言葉は完全に取り除いていく」ということです。

自分や他人を否定し、価値を下げるような言葉を一切禁止してください。それがスマートトークを自らに習慣づける秘訣です。

ネガティブな言葉は、ネガティブなマインドや記憶、セルフイメージ、信念や態度、そして習慣が積み重なっていくからです。それは自分や他人のセルフエスティームとエフィカシーを下げたり、他人からの信頼を失ってしまうことになるでしょう。


セルフ・トークの大半は、ネガティブな言葉であることが多いものです。人間は、成功体験よりも失敗体験の方が記憶に強く残るようにできているからです。

他人のセルフ・トークを聞いていると、皆さんも気づかれると思いますが、人は放っておくと、ネガティブなセルフ・トークが蔓延しがちです。

ですから、きちんと自らの発する言葉を意識し、習慣となってしまっている今までのセルフイメージに合致した言葉や口癖を、理想とするセルフイメージに沿ったものへと意識して変えていく必要があります。

これが、「スマート・トーク」なのです。


そして、そのスマート・トークをより確実にするためには、今後のSTEP7でご紹介する「サブ・ゴールとビジュアライゼーション」という技術が、非常に強力で有効な手段となります。



スマート・トークがきちんとできていれば、コンフォートゾーンは確実にゴール側へと移行していきます。

それがマインドの仕組みだからです。そして、ルータイスが、長年の研究と実践の中で、実証してきたことでもあります。


ルータイスは言います。

「自分に語りかける言葉は注意深く選んでください。自分との対話によって、何かに向かわせることも、引き離すこともできます」


今まで様々な自己啓発や自己変革プログラムを実践してきたが、変化がなかった。そういう話もよく聞かれます。

コーチングの視点で突き詰めると、それは「ゴール設定がしっかりとできていない」「エフィカシーが低い」「セルフ・トークのコントロールが不十分」などというところに行き着きます。

セルフ・トークを聞けば、その人の未来がどのようになっていくのかを、明確に判断することができるのです。



STEP4のコンフォート・ゾーンのところでご紹介しましたが、「人間は、コンフォートゾーンの外側のことはスコトーマとなって見えない」という部分を思い出して下さい。

スコトーマとなってゴールやその達成方法が見えないか、それとも見えるか、その差はコンフォートゾーンの外側であるか、内側であるかの差だということをお話しました。

そして、セルフ・トークのコントロールは、コンフォートゾーンそのものを変える技術です。ゴール側へとずらす技術といった方が正確かもしれません。

ですから、「セルフ・トークのコントロールは、使い方次第で、見えなかったものを見えるようにする技術」と表現することができます。





最後に、セルフ・トークに関するよくある大きな疑問にお答えして、このステップを締めくくりたいと思います。

「コーチングを学びました。ゴールも無事に設定して、セルフ・トークのコントロールもきちんと行っています。しかし、今までの長い人生の中で、ずっとネガティブなセルフ・トークばかりを行ってきた自分。たっぷりとネガティブ・トークを蓄積してきた私の脳。今更それを乗り越えて、本当に自分を変えることなどできるのだろうか」という疑問です。


その答えは、もちろん、できます。

コーチングの体系は、そういった問題をきちんと乗り越えられるようにできています。


その秘密は、「ゴールは現状の外側に設定する」という部分と、「スコトーマの原理」にあります。

現状の外側にゴールを設定することで、マインドは大きなエネルギーを生み出します。まずはこれが圧倒的な変化を促す原動力になります。無意識は眠っていた力を解放することで、それまで強固に維持されてきたセルフイメージ、そしてホメオスタシスを乗り越えるのです。


そうしてコンフォートゾーンを大きく変えると、先ほどご説明したように、スコトーマも大きく変化します。これによって、今まで蓄積してきたネガティブなセルフ・トークによる以前のセルフイメージをスコトーマに隠してしまう。言い換えると、RAS(ラス)というフィルターによって、昔の自分を遮断してしまうのです。過去の自分を、記憶の外側に追いやるのです。

実際には、ゴールと関係ない過去の記憶が脳内から完全に消えてなくなるわけではありませんが、思い出せなくなり、ゴールに必要のない過去の記憶とセルフイメージに蓋をするのがRASの役目ということです。


脳内における記憶のメカニズムというのは、現代の科学でも完全に解明されているわけではありませんが、一度記憶されたものはなくならないようです。

しかし、思い出せなくすることは可能なのです。現状の外側にゴールを設定し、それに見合ったセルフ・トークをコントロールすることによって可能となります。


コーチングの体系は本当に精緻で、そして巧みに構成されています。安心して皆さんに、実践して頂きたいと思います。




I manage my own mind.
Lou Tice

私は自分自身のマインドを上手に使っている。
ルー・タイス



Be careful of your thoughts, for your thoughts become your words.
Be careful of your words, for your words become your deeds.
Be careful of your deeds, for your deeds become your habits.
Be careful of your habits; for your habits become your character.
Be careful of your character, for your character becomes your destiny.

思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから。
(作者不詳)



I attribute my success to this – I never gave or took any excuse.
Florence Nightingale

私が成功を手にしたのは、決して言い訳をしたり、弁解を受け入れなかったからです。
フローレンス・ナイチンゲール(看護師、社会起業家、統計学者)



Keep your face to the sunshine and you cannot see the shadow.
Be of good cheer. Do not think of today’s failures, but of the success that may come tomorrow.
Helen Keller

いつも顔を太陽の方に向けていて。影の方なんて見ていることはないわ。
元気を出して。今日の失敗のことなんて考えるんじゃなくて、明日訪れるかもしれない成功のことを考えるのよ。
ヘレン・ケラー(教育家、社会福祉活動家)




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