
『誰でもできる「コーチング」のはじめ方 STEP9 アファメーション』では、「ゴール達成」と「アファメーション」について解説します。
コーチングとは、「ゴールを設定し、そのゴールを実現するためのマインドの技術」のことです。
ゴールとは、「人生や組織における目標、目的地」のことです。そして、そのゴール設定やサブゴール設定にはルールが存在します。
【ゴール設定の3つのルール】
① ゴールは「現状の外側」に設定する
② 心から望むこと、成し遂げたいことをゴールとして設定する
③ ゴールは人生(や組織)の各方面にまんべんなく設定する
※ 「現状の外側」とは、現在の延長線上の未来には到底起こり得ない、自分が大きく変わらない限り、絶対に達成できないような遠く高いゴールのことです。達成方法が現時点ではまるで見えないゴールです。
【サブゴール設定のルール】
① サブゴールは具体的かつ明確に設定する
※ サブゴールとは、「ゴールの世界を構成する一部分」、または、「ゴール達成をしていく過程での中間点」のことです。「現状の外側のゴール達成に必要な要素」です。
ルータイスは「映像・言葉・感情」の3つを重要視していました。ゴール達成に必要な3つの要素として、「思考の3つの軸」と呼び、この3つの相互作用によってゴールの世界の臨場感、リアリティを高め、ゴール達成を促すのです。
STEP7のビジュアライゼーションの冒頭でご紹介したように、「人間は、脳内に蓄積されたリアリティに従って判断し、また行動する」からです。
「映像・言葉・感情」こそが人生を決定していると言えます。コーチングのゴール達成においても、どれひとつとっても欠かすことのできない非常に重要な要素です。
その表れとして、ルールに基づいてゴールを設定したら、「サブゴールの設定」「ビジュアライゼーション」「セルフトークのコントロール」「セルフエスティームやエフィカシーを高める」といった技術につながっていきます。
ルータイスは言います。
「何を達成するかは、ほとんどの場合、何を信じるかによって決まる」
「頭の中のビジョンや理想、目標、あるいは将来を今の現実より強力でリアルにしたいと思うのなら、感情の力を使うことが必要です」
「明確さと強い思いと繰り返しによって、頭の中のイメージが変わり、物事がそうあるべき新しい感覚が生まれます」
ここで、これまでのステップで学んできた「ゴール達成のためのエッセンス」について簡単に総括します。
【ビジュアライゼーション】
ビジュアライゼーションとは、心の中に鮮明な映像を描いて、ゴールに必要な世界をリアルにイメージし、強い情動を伴って、ゴールの臨場感を高める方法のことです。
ビジュアライゼーションは、その人の心の中の映像を置き換えます。映像はその人の頭の中のリアリティやセルフイメージに強い影響を与えます。STEP1のコーチングとは?で紹介したように、マイケルフェルプス選手が行っていた自己変革法もまさに、このビジュアライゼーションです。
ビジュアライゼーションを行うことによって、ゴール側のリアリティを強化し、セルフイメージやコンフォートゾーンをゴールの世界にふさわしいレベルに押し上げる強力な手段となります。まさに、ルータイスの方程式 「I(Image)× V(Vividness)= R(Reality)」を反映した技術と言えます。
また、ビジュアライゼーションは、サブゴールとワンセットになる概念です。ゴール達成に向かうために必要な構成要素や中間点となる「具体的かつ明確なサブゴール」がきちんと設定されることによって、ビジュアライゼーションをより効果的で確実に行うことができるのです。
【セルフトーク】
セルフトークのコントロールも重要です。
セルフトークは「自分自身に語りかける言葉」のことですが、言葉は映像を想起させ、感情を結び付け、その人の頭の中にリアルな体験と記憶をつくり出します。一見、些細に見えるセルフトークも、実体験と同じような影響をマインドに及ぼしますから、セルフトークを過小評価し、安易に考えてはいけません。
セルフトークを何度も繰り返すことによって、自分とはこういう人間なんだという自分像が脳内に何度も刷り込まれ、自我の形成が着実に積み重なっていきます。実際には一度しか起こっていない出来事であっても、それに関するセルフトークを繰り返していくと、その出来事を何度も体験したのと同じように脳内で再現され、記憶やセルフイメージとして定着してしまいます。
セルフトークは、セルフイメージの形成に、特に強い影響を与えるのです。
セルフイメージをゴールの世界の自分にふさわしいものにしていくためには、セルフトークをコントロールし、セルフトークをすべてゴールやサブゴールに対して肯定的な表現と言葉に変えていくことが不可欠です。また一方で、目標とする理想のセルフイメージに合致しない、否定的な表現や言葉は完全に取り除いていくということも忘れてはいけません。
【エフィカシー】
セルフエスティームやエフィカシーは、それぞれ、存在価値や能力に対する自己評価のことですが、その人の潜在能力やパフォーマンスに直結する非常に重要な概念です。
これが理解されていないと、人はパフォーマンスが上がらないばかりか、成果を出すことが決してできませんし、セルフトークもゴールに対して肯定的なものになってはいきません。自己評価を高めることが、潜在能力を引き出す最も効果的な手段なのです。
自分が価値ある人間であることに、強い自信と誇りを持つのです。自分で自分に許可を与え、「自分はできる」「自分は価値あるすごいやつなんだ」と自分を認めます。
自分に自信を持っていれば、周りの人は自ずと自分のところに集まり、ついてくるようになります。高いセルフエスティームとエフィカシーを持つことで、自分を取り巻く環境や能力、パフォーマンス、そして人生が素晴らしいものになっていきます。
そして、ゴールに対してふさわしいセルフトークや高いセルフエスティームとエフィカシーを維持するためには、「ゴールは他人にむやみに話さない」という原則も忘れてはなりません。
さて、このステップ9ではいよいよ、ゴールを達成するために最も強力な技術、そして、ルータイスが最も伝えたかった方法論である「アファメーション」についての解説に入っていきます。
ゴールを達成するためには、ゴールの世界のリアリティを高めることがその本質であることは、これまでのステップをお読み下されば、ご理解いただけると思います。
解説をしてきた概念や方法論はすべて、ゴール達成とそのリアリティに直結するものです。
じつは、これらすべての技術を踏襲し、ゴール達成を最も強力かつ確実に促すものがあります。それが「アファメーション」なのです。
では、そのアファメーションとは、一体どんなものなのかを、詳しく解説していきます。
アファメーションとは、ゴール達成に必要な自分、セルフイメージやマインドを創るために、自分自身の脳や潜在意識に語りかける言葉のことです。
その中身はというと、ゴールを達成した将来の自分のリアリティを高めるために、「言葉のイメージ喚起力を利用する」ものです。言葉は映像を想起させ、映像は情動を呼び覚まします。
ルータイスのアファメーションは、「11のルール」に従って書きます。簡潔に、明確に、具体的に、アファメーションは詳細なイメージを伝えるものでなくてはなりません。
目標を文字の形に表わすことで、結果のイメージがより鮮明に頭の中に描かれます。そのイメージは、それが喚起する感情とともに、それがすでに達成されたことであるかのように目標を潜在意識に刷り込みます。
ルールに基づいて書き上げたアファメーションは、潜在意識にしっかりと落とし込むために、毎日少なくとも2回、声に出して読みます。
最も効果的な時間帯は、「夜の就寝前」と「朝の目が覚めた直後」です。この時間帯が最も効果的に潜在意識に刷り込みを行うことができます。
アファメーションを唱え、そして目を閉じてアファメーションに描かれた世界をイメージします。ゴールを達成した時に感じるであろうワクワクした感情とともに、ゴール世界に浸り切ります。このプロセスを一つひとつのアファメーションに対して行っていきます。
アファメーションとは、「言語を利用した未来のリハーサル、ビジュアライゼーション」ということができます。
アファメーションの「11のルール」
① 個人的なものであること
② 肯定的な表現のみを使う
③ 現在進行形で書く
④ 「達成している」という内容にする
⑤ 決して他人との比較をしない
⑥ 動きを表す言葉を使う
⑦ 感情を表す言葉を使う
⑧ 記述の精度を高める
⑨ バランスをとる
⑩ リアルなものにする
⑪ 秘密にする
ルール①「個人的なものであること」、⑤「決して他人との比較をしない」
一人称で書き、主語を「私」「私たち」にします。コーチングでは他人のものさしは一切利用しません。自分自身が本心から幸福を感じ、やりたいと思えることに集中します。比較の概念は必ず、ネガティブな感情を引き起こし、エフィカシーを下げ、ゴールの世界のリアリティを下げてしまいます。比較をするのではなく、相手を手本とするのです。
ルール②「肯定的な表現のみを使う」
無意識に否定形は通用しません。否定する内容を口にした途端、その内容を脳はイメージしてしまうからです。「リンゴをイメージしないで下さい」と言われても、脳はリンゴをイメージしてしまいます。アファメーションは否定語、否定形は使用せず、肯定的な表現のみを使います。
ルール③「現在進行形で書く」、④「達成しているという内容にする」
すでに達成しているというリアルなゴールの世界を描くことで、リアリティを高め、無意識にその世界をコンフォートゾーンとして認識させます。
ルール⑥「動きを表す言葉を使う」
ゴール達成にふさわしい自分のセルフイメージを思い描く場合、行動や動きのある表現がありありとした世界を描き、リアリティを高めます。
⑦「感情を表す言葉を使う」
「うれしい」「楽しい」「誇らしい」「清々しい」「気持ちいい」「幸せ」などの感情を表す言葉を使うことで、ゴール達成のリアリティが高まり、感情の力を使うことで、より成長や達成を早めることができます。
ルール⑧「記述の精度を高める」、⑩「リアルなものにする」
あいまいな表現や不明瞭な言葉、非現実的な内容は臨場感が高まらず、アファメーションの効果を十分に発揮させることができません。アファメーションは一度つくれば終わりというものではなく、日々の実践の中でその都度修正を加えながら磨き続け、より精度を高めていきます。
ルール⑨「バランスをとる」
ゴールはひとつではありません。ゴールを複数設定することによって人生全体でバランスをとり、人生をより豊かなものにします。また、ゴールは複数設定した方がゴールの世界のリアリティは高まり、ゴール達成をより確実に促すことができます。それに伴って、アファメーションも人生全体でバランスよく表現し、一つひとつのアファメーションに矛盾がないように調和を取りながら、書いていく必要があります。
ルール⑪「 秘密にする」
ゴールやアファメーションは、むやみやたらに他人に見せたり、話してはいけません。「もっと今の自分や周りを見なさい」などと否定され、エフィカシーを下げてしまったり、ゴールのリアリティを下げてしまう可能性があるからです。ドリームキラー(夢を邪魔してきたり、壊す人のこと)にゴール達成を邪魔されないために注意が必要です。また、他人に話したり宣言してしまうことで、そのゴールやアファメーションは、本来「Want-to(~したい)」であるはずのものが、「Have-to(~しなければならない)」に変わってしまう可能性もあります。
【アファメーション例文】
(例文1)
私は成功している。私は裕福な人生を過ごしている。いつも明るく上機嫌で、笑いに包まれている。人を喜ばせることにワクワクしている。
(例文2)
私の世界に通用するビジネスと情報発信は、人々に大いなる感動と喜びをもたらしているので、瞬く間に世界中へと拡がっていって、嬉しい。
(例文3)
私は知性と人徳を兼ね備えた理想的な人格の持ち主。魂の成長、自身の魅力を生涯磨き続けている。世界中の様々な場所に、多くの素晴らしい友人達がいてくれる。
(例文4)
私は世界を飛び回り、動かす“世界屈指”の実業家、投資家。世界中の人々に最も必要とされ、世界を舞台に活躍し、5つのビジネスを心から楽しんでいる。
(例文5)
私達は広々とした4LDKの豪華なマンションに暮らしている。優雅な書斎、妻の絢爛な部屋、シンプルな寝室、スッキリ爽やかなリビングとアイランドキッチン、息を呑むほど美しい景色と夜景が眼下に広がっている。
(例文6)
私達は毎月、世界中を旅してまわり、様々な国や美しい名所、多様な文化に触れ、ダイビングや船旅を楽しみ、超一流ホテルや楽園でのひと時を満喫している。
(例文7)
私は抜群のルックスとスタイルの良さ。人々が思わずハッと目を留めてしまう、そんなオーラと装いと佇まい。卓越したファッションセンスがあり、お洒落でカッコよく美しく、常に人々を魅了し魅(ひ)きつける存在で、誇らしい。
さらなるアファメーション例文はこちら
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アファメーションの効果的な書き方と例文を解説
上記のアファメーション例文は、あくまで例であって、本人が心から望み、納得し、ワクワクするようなアファメーションを具体的に書き出すためには、ゴール設定や将来のビジョンがある程度、明確に見えている必要があります。
ここで、いくつかのワークに取り組んでみましょう。アファメーションが以前よりずっと書きやすくなるはずです。
【ワーク1: 自己認識と存在意義の明確化】
① あなたにとって本当に大切なものは何ですか?
② あなたの存在意義、与えられた今世で何を成し遂げたいですか?
③ あなたの目指すべき将来のビジョンはどのようなものですか?
④ あなたは社会に対してどのような貢献をしたいですか?
⑤ 上記を達成するために、今のあなたに必要なものは何ですか? これから1〜3年で為すべきこと、短期目標(サブゴール)はありますか?
【ワーク2: 憧れの存在を調査】
① 憧れている人、成功している人、目標としたい人達の特徴を10~20個書き出してみましょう。
② 自分は他人からどう思われたいのか、どう見られたいのか、10~20個書き出してみましょう。
③ 今の自分の課題、これから身に付けたいスキルや自身の在り方について、思いつくがままに書き出してみましょう。
④ 上記を参考に、心に響く言葉、キーワード、マイテーマを表す言葉があれば、書いてみましょう。
⑤ 上記を参考に、さっそくアファメーションを書いてみましょう。
最後に、ルータイスが私たちに最初に教えてくれたアファメーションをご紹介して、ステップを終了したいと思います。
I could be more, do more, and have more.
I am going to start with myself, with my own self talk, and build out from
there.
Lou Tice
私はもっと大きな人間になれる。もっと多くのことができる。もっと多くを手にすることができる。私は自分自身のこと、自分に語りかける言葉からはじめ、可能性の扉を切り拓いている。
ルー・タイス
【組織のアファメーション】
上記のアファメーションの解説は、個人に対する内容のものでしたが、ここでは組織に関するアファメーションについても、少しだけ触れておきます。
アファメーションとは、ゴールを達成するために、言語を使って自分自身や潜在意識により明確で具体的な自身の在り方を語りかけ、ゴールやサブゴールのリアリティを強化し、マインドを自然で無理なくゴール達成に向かわせる技術のことですが、それは個人にとっても組織にとっても全く同じことです。
組織のアファメーションとしてよく知られているものに、「クレド」があります。
クレド(Credo)とは、信条を表すラテン語で、「組織や企業の信条、行動指針、規範等を簡潔かつ具体的に表したもの」です。
理念に基づいた組織のより具体的な在りようや価値観、組織模様をクレドとして簡潔に表現し、手帳などに収まるようコンパクトにまとめた形にすることで、クレドを携帯をしたり、すぐに確認できるようにするのが目的です。
クレドは、構成員の持つべき信条、行動の指針、判断基準、心の拠り所として機能し、組織全体が企業理念やゴールに基づいた共通認識を持ち、理解し、向かうべき方向性を明確にします。
クレドの具体例や参考としては、世界的に展開する高級ホテル「ザ・リッツ・カールトン」のクレド、同社では「ゴールドスタンダード」と呼ばれるものや、ヘルスケア商品やサービスによる世界的企業「J&J社(ジョンソン・エンド・ジョンソン)」の「我が信条」が、大変有名で素晴らしいものです。
ルータイスのアファメーションと比較して、文体や表現の仕方、書き方のルールは多少異なりますが、自分たちのマインドへのあるべき姿勢の問いかけや語りかけという意味では、同じものになります。
同社の事例やクレドについて詳しくはこちら
ブログサイト:
クレドとは? 8社の事例とクレドの作り方 組織の信条と行動指針
ぜひ、参考にしてみてください。
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